診療放射線技師になり画像診断部門で勤務して15年経ちました。子供も産まれ親の立場になり子供の検査をした時の親御さんの気持ちも分かるようになりました。
放射線の影響
皆さんからよく受ける質問で1番多いのが「がんになりませんか?」という事です。これはお年寄りからもよく質問をもらいます。
ICRP(国際防護委員会)は「100mSvを下回る低線量域ではがん又は遺伝的影響の発生が関係する臓器及び組織の等価線量の増加に正比例して増加するであろうと仮定するのが科学的にもっともらしい。この仮説を明確に実証するのは難しい」と言っています。要は放射線の影響は0ではないが100mSv以下の線量では生活習慣や飲酒、喫煙などのその他様々な影響と放射線の影響と区別がつかないという事です。
通常のレントゲンやCT検査等においてがんの発生を心配するような放射線量を使用する事はありません。ですが我々は出来るだけ線量を少なく出来るように努力してます。
胸部レントゲンの被ばく線量は0.02~0.1mSvくらい。胸部CT検査では5~8mSvくらいです。
CT検査における主な臓器の吸収線量(成人)
水晶体 | 甲状腺 | 乳腺 | 子宮 | 卵巣 | 精巣 | |
頭部 | 50 | 1.9 | 0.03 | |||
胸部 | 0.14 | 2.3 | 21 | 0.06 | 0.08 | |
腹部 | 0.05 | 0.72 | 8.0 | 8.0 | 0.7 | |
骨盤 | 0.03 | 26 | 23 | 1.7 |
空欄は0.005mGy以下 ICRP Pub87より
子供は成人にくらべ放射線発がんの感受性が2〜3倍あると言われています。ですが子供は体が小さい分、放射線の線量も少なくなります。お子さんが放射線検査を受け将来の影響を心配するような事はありません。
私がもし子供を病院に連れて行き医師に検査を進められたら検査を受けさせると思います。放射線の影響よりその時原因をはっきりさせる方が大切だと思います。
普段の生活にも放射線はたくさんあります。
これを書くと諸先輩方から検査線量と自然放射線を比較する事自体間違っているとご指摘ありそうですが自然放射線も0ではないし、放射線は身直な物だという事で書きます。
年間 食べ物から0.3mSv 空気から1.2mSv 大地から0.5mSv 宇宙から0.4mSv
日本では年間合計約2.4mSv自然放射線から被ばくしている事になります。世界では地域により日本の数十倍自然放射線から被ばくする地域がありますが住んでいる地域での被ばく線量の違いにより健康に有意差は認められておりません。
放射線がとっつきにくい理由
単位が分かりにくい
放射線には様々な単位がありSv Gy Bq C/kgそれぞれ意味があり使い分けてますが一般的には非常に分かりにくいと思います。
放射線と放射能の量を表すのに使用される単位
内 容 | 意 味 | 単 位 | |
記 号 | 名 称 | ||
放射能 | どれだけ放射線が出ているか | Bq |
ベクレル |
照射線量 | 人体にどれだけ当たっているか | C/kg | クーロン/キログラム |
吸収線量 | 人体にどれだけ吸収されたか | Gy | グレイ |
実効線量 | 人体への影響はどうか | Sv | シーベルト |
この表を元に考えてもらえると少しわかりやすいと思います。
検査がそもそも嫌なのにその上、被ばくしちゃうという二重苦
検査が「病気大丈夫かなぁ、嫌だなぁ、苦しくないかなぁ」とネガティブになっている所に「ん?そういや、この検査放射線も使うんだなぁ、被ばくも心配だ」と余計にマイナス思考に陥ってしまう気持ち分かります。私たちはその気持ちで検査に来られているのを知った上で検査してます。最適な線量で最短時間で検査するように心がけていますのでご協力お願いします。
今まで実際に受けた質問に答えます
患者さんから質問された内容を私が答えた内容と一緒に紹介します。
Q.先週も検査したのですが大丈夫ですか?
この質問は腕を骨折してレントゲンを撮りに来た子供のお母さんからの質問でした。
A.腕のレントゲン1枚で約0.15mGyです。今回は2枚撮影しましたので0.3mGyです。放射線は骨折した骨に限定して撮影しています。腕以外の被ばく線量はほとんどありません。100mSv以下の線量では発がんとの因果関係は認められていません。まったく心配する必要はありません。
Q.CTの検査を受けましたが将来、妊娠する時に影響はありませんか?
腹痛でお腹のCTを撮った女子中学生の親御さんからの質問でした。将来の妊娠した時の影響や不妊の心配をされているようでした。
A.CT検査に生殖腺の卵巣への被ばく線量は約8mGyです。不妊になる心配があるとされている線量は一時不妊でも2500mGyです。検査の影響で不妊になる心配はありません。妊娠した時の赤ちゃんへの影響ですが今回の検査の線量では自然発生の割合を超える可能性はないと考えます。
Q.こないだ胃の検診を受けましたが受けた後に妊娠が分かりました。子供への影響はありませんか?
違う病院で胃の検査されたようでしたが心配になり放射線科に相談に来られました。
A.妊娠中の被ばくの影響については妊娠時期よって種類が違います。
妊娠時期 | 主な影響 | 影響が心配される線量 |
着床前期(〜受精後8日) |
胚の死亡(流産) | 100mGy |
器官形成期(妊娠2週〜8週) | 奇形 | 100mGy |
胎児期(妊娠8週以降) | 発育遅延 | 100mGy |
精神遅滞 | 120~200mGy |
胃の検診での胎児の被ばく線量は約1.1mGyだと言われています。お腹の中の赤ちゃんにはほとんど影響ありません。
子供が検査するのは親もとても不安です
私も子供がいます。親が子供を心配する気持ちは痛いほど分かります。友達と公園に遊びに行くだけでも心配なのに検査するなんてむちゃくちゃ心配だと思います。被ばくや放射線検査についての質問がありましたら遠慮なく診療放射線技師に聞いてください。
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